« オランダでジョーク3連発 | トップページ | フランスの歴史を自己流に考える »

2006年10月 5日 (木)

「国家の罠」を読む

某月某日の土曜日。 8時過ぎの起床。 出かける家族に残され、一人、ゆっくり本を読んだ。

佐藤勝氏著「国家の罠」 ~ 外務省のラスプーチンと呼ばれて~ を一気に読んでしまった。実は、先週は、この方の第二著「自壊する帝国」を先に読んで、感銘を受け最初の著書にしてベストセラーになったこの本を手にした次第なのだが。

数年前、マスコミを賑わせた田中真紀子・鈴木宗夫・外務省の三つ巴の内紛劇もからんだスキャンダルで東京地検特捜部に逮捕された外務省の役人である。著者の写真を拝見すると、西郷隆盛如き、「異相」である。日本人にはちょっと見えない。 ロシア大使館に勤務していたときは、よくロシアのアジア系少数民族に間違えられたという。

読み始めて、ぐんぐん引き込まれた。 氏の文体がすばらしい。無駄な言葉がなく、コンパクトで、鋭い。 著者の才気あふれる、畳み掛けるような文体は、読んでいて、実に心地よく、また楽しい。

同氏は、クリスチャンで同志社大学の大学院で神学を勉強し、さらに、チェコに留学したくて、外務省にノンキャリアで入省した変わり者である。 うまく、外務省を利用して、公務員としてお金をもらいながら、神学の勉強を続けて、その後のキャリアアップの段階で、適当に辞めるつもりだったらしい。 しかし、人生は本人の思惑とは違う運命を用意していた。 語学研修は、結局、希望のチェコ語に派遣されず、ロシア語を勉強する羽目になった。外務省のロシア・スクールのロシア語研修は、ロシアではやらないのだ。まずは、イギリスの陸軍学校で徹底的にロシア語を勉強し、その後、モスクワ大使館に赴任。モスクワのモスクワ大学で「おまけ」のロシア語学習(本人は、幻滅して、神学の勉強をしたり、ロシア人脈を気づき始める)後、こと志と違って、モスクワ大使館勤務になり、そこで自分の才能に目覚め、めきめきと頭角を現し!本省に戻って、情報分析官として活躍した。 情報分析官? つまり、インテリジェンスである。 

ロシアとイスラエルに情報ネットワークを持ち、ロシア情報分析においては追随を許さない実力を発揮、外務省内では一目置かれる存在であった。 鈴木宗夫氏との出会い、橋本、森、小渕首相の流れで、2000年までに日ソ平和条約を締結して、北方領土問題に決着するべく、現場に深く関わった人である。

これが、小泉政権誕生、田中真紀子外務大臣登場によって、外務省を舞台とする泥仕合の結果、東京地検特捜部から逮捕、起訴されたことは記憶に新しい。あれは、一体全体なんだったのだろうか? 氏は、結局、200310月、26ヶ月の有罪、執行猶予4年の判決を受け、控訴。 現在も裁判中である。 

ロシア情報には、アメリカ経由の情報、ヨーロッパ情報、そして、イスラエル情報の3つがあること。 前の2者については、当然と思うのだが、3番目のイスラエル情報といのが味噌だ。 ゴルバチョフが登場してソ連が崩壊、ロシアとなって、かなりのロシア人がイスラエルに流れ込んだ。 現在、イスラエルの人口の内6人に一人はロシア系なのだという。ロシアとイスラエルのつながりは深いのだ。 

それと、インテリジェンスの世界は人脈が全て。それも、信頼関係がベース。 お互いに、こいつは出来るな、そして信用できるな、となると、親しき中にも礼儀ありだが、核心に迫る情報がいとも簡単に転がり込む。 結局このような人脈を作ったりする、泥臭い仕事は現場の仕事であって、キャリア組みの外交官が出る幕ではないのかもしれない。 

同氏にとって、外務省での情報分析官という仕事ははまり役だったが、小泉政権という大きな政治の枠組みの中で、政治力学に翻弄されて葬られてしまった悲劇である。 しかし、それにも関わらず、精力的に著者が発表する本は、鋭い洞察力にあふれ、一読も二読にも値する優れたものだと私は思う。 今後とも、著作を通じて、付き合って行きたい人である。 

ロシアについては自分の勉強不足を痛感したが、これとは別に、イスラエルという存在がまた気になりだした。 直感だが、単なるシオニズム運動によるイスラエル建国という神話の裏には、別の意図が隠されている。 政治的な意図である。 最近のヨルダン侵攻や、アメリカに親イスラエル政策をとらせ続けるアメリカのユダヤロビーの存在もそのひとつ。

又、驚いたのは、著者の叙述の中に、外務省キャリアの東郷和彦氏は、ユダヤ人として見れなくない、とイスラエル政府関係者の話のくだりで、これは目から鱗である。 東郷氏は、もともとは、司馬遼太郎氏の小説にもあるが、豊臣秀吉の朝鮮侵攻で日本に連れ去られた韓国人の末裔であり、東郷和彦氏の祖父は、太平洋戦争中の外務次官でもある東郷茂徳氏で、奥様はユダヤ系の白人だった。 子供はお嬢さんしかいなくて、その息子が、著者の上司の東郷和彦氏である。 よって、イスラエルの帰還法に基づけば、イスラエル国籍を取れる! というのだ。 ユダヤ人とは母親がユダヤ人なら自動的にユダヤ人なのだそうだ。 ユダヤ教信者じゃなくても国籍を取れるのか? ユダヤ人とは何か? 考えさせられる。 日本人のセンスでは理解できない何かがある。

北方領土問題については、イスラエルのソ連・ロシア問題の第一人者ゴロデツキー教授(奥様は、何とイギリスのあのソ連研究の泰斗E.H. カー氏の秘書だったという!)によれば、スターリニズムの負の遺産であって、同じ負の遺産であった東西ドイツ分裂と東欧諸国が1989年のベルリン壁崩壊で、解消されたのに対し、日本は、その同じ機会を活用できなかったことが、今日の事態を招いているという。 ロシアは、チェチェン問題を抱えて、ロシア政治エリートは領土変更問題には抵抗感を持っている。 50年に一度のチャンスを逃したのだ。 そして、ロシアとの交渉は、トップ交渉しかないのだという。

 

などなど。 いろいろ啓発される本であった。

« オランダでジョーク3連発 | トップページ | フランスの歴史を自己流に考える »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「国家の罠」を読む:

« オランダでジョーク3連発 | トップページ | フランスの歴史を自己流に考える »