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2006年10月 1日 (日)

未完の傑作 「詐欺師フェリックス・クルルの告白」

1999年ロンドンの夏~秋にかけて英語版で読んだ。 この本は、マンの絶筆である。

書き始めたのは第一次大戦の始まる前、80歳を超えて結局完成しないで終わってしまったが、30歳から50年書きつづけてきた(途中もちろん中断しているが)ひょっとすると、一番トーマス・マンが書きたかったテーマかも知れない。それは何か?

「芸術」というと何か崇高で立派なものだと思う人が多いかもしれないが、そのいかがわしさをかなり自覚していたのがマンだ。詩人を例にとろう。実利主義が跋扈するこの近代の資本主義時代に、詩人など必要だろうか?繊細な感性によって、この現実世界のなかにポエジーを見出しそれを言葉で構築していくプロ。

しかし、「売りと買い」「食うか食われるか」が現実の非情なこの世界ではは決して勝者になれない役立たずの余計者でもある。詩人というこの道化者。敗北者。何故に、それにもかかわらず、世間は「詩人」に敬意を表するのだろうか?彼らはこの世の普通の人々の生業になじめず、不器用で、時には滑稽ですらあるのに。

詩人というのは、芸術家一般と置き換えても良い(音楽、絵画、映画、陶芸、歌舞伎、能、などなど)。美を作り出すのが芸術であるとしても、肝心の作り手である本人は、美からもっとも隔たっているというこの逆説。

人はなんらかで美しいもの一般に魅惑され続けながら生きていくというのがこの殺伐とした非情とも言える現実のもう一つの現実ではないだろうか?さて、その美の作り手である芸術家の内なる実態を知ったら……・。

物語は、決して生まれは卑しくはないが、破産が原因で自殺したシャンペン業者の父親を持つ青年。生まれ持った美貌と演技の才能で、徴兵検査に落第する演技をし見事、兵役を免除、名付け親となった叔父のツテでパリへ。パリへ行く列車の中で、偶然にもある大金持ちの貴婦人の宝石を手に入れてしまう(盗んでしまう)。

パリで就職するのは、今もチュイレリー公園の前にあるSt. James Albhany名門ホテルである。主人公は、エレベーター・ボーイの職を手に入れる。時代は19世紀末か今世紀初頭、いずれにしても第一次大戦前の時代。見事なコスチュームを身につけ持ち前の美貌と演技力と語学力で滞在する富豪立ちを次々と魅惑して取り入っていく。

スコットランドの独身城主。ルクセンブルクの貴族の有閑マダム、何と、パリへの列車に乗り合わせた貴婦人、つまり宝石を偶然から盗んでしまった人だ。この貴婦人とはベッドをともにし、最後は、すべての宝石をせしめてしまう。それも婦人が敢えて主人公に盗まれるように仕向けるのである。婦人は、主人公の教養の無さに気づくが、主人公の美しさ、優雅さに屈して快楽の世界に身を任せる。

客に評判の良い彼はある日、高貴な生まれの青年学生と知り合う(もちろん、客とボーイの関係)。青年学生は、いわゆるディレッタント。お金に不自由するわけでもなく、一生、労働とは無縁に暮らせる資産家の御曹司だ。が、女に入れ揚げ、学業を放棄する不良振り。 行く末を心配した両親が、女と縁を切らせるために、世界旅行を思いつく。新しい世界を見せて人生の見聞を広めるよう仕向け、冷却期間を設ければ女とも切れるだろうと。

ところが、どっこい不良青年も悪知恵は天下一。主人公の優雅さと才能を見こんだ不良青年は、役柄を交代しようと申し出た。世界旅行を提供するから、自分に成り代わってくれと!自分は、女とよろしくやっている。契約成立!

かくて、フェリックス・クルル青年は、最初の旅の目的地ポルトガルへと向かう。金持ち御曹司に成り代わって!列車の中で、やんごとなきポルトガル人ククック博士と知り合う。

リスボンではその家族(魅力的な妻と娘)に出会う。主人公は、高貴な生まれの青年を堂々と演じ、リスボンの王室にまで紹介され国王を魅了する。かと思えば、滞在を伸ばし、何とか頑なで尖っている性格の娘の心を捉えようとする。場面は、娘が心を開いて主人公になびくところで密会の現場を母親に見つかり、二人のこれからは?主人公の旅は?さて、乞うご期待。

で残念ながら未刊となってしまった。誰か、続編を書いてくれないだろうか?英語で読んだので細部が粗い読み方になってしまったが、例によって、文中思わず書きとめたくなるような、「魅惑的な文章」にでくわことたびたびで、楽しく読了した。

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