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2006年11月 5日 (日)

南蛮阿房列車と開高健

南蛮阿房列車、南蛮阿房列車第2列車 (新潮文庫) 阿川弘之著

積読しておいた本である。昨年、帰郷して本を整理したら出てきた本だ。ある日、何のことはなしに読み始めたらたちまち引き込まれてしまった。 同氏の著書はじつはこれが始めてだ。 評伝「志賀直哉」や「山本五十六」は読もう読もうと思ってまだ読んでいない。氏の列車に対する情熱のほとばしりが余技となって実に楽しい本に読み物となっている。「阿房列車」といえば、元祖は内田百閒氏である。内田先生の場合は、日本国内の列車だが、阿川氏は、その海外版ということになる。

読んでいるうちに、阿川氏が非常に短気で瞬間湯沸かし器タイプであることが良く分かった。頭の回転が速い。 そして、驚くのは昔の海軍の同期生達の人脈の華々しさ。 行く外国では、商社の重鎮やら、大使館の大使やらそうそうたる顔ぶれである。

さて、私のお気に入りは、開高健氏が登場する「第2列車」の「マッキンレー阿房列車」と「ニューヨーク国際阿房列車」である。 故開高健氏の本はほとんど読んでいるが、同氏の釣り紀行は、傑作だと思う。 開高氏の友人にして批評家の故向井敏氏は、開高氏の「もっと遠く、もっと広く」(北米、中米、南米縦断釣り紀行)は「現在のオデッセイ」と評したが、私も美しい自然の写真と開高氏の文体に魅了されたものだ。

さて、阿川氏のこの本で開高氏は、「憂鬱なエスキモーの詩人哲学者」として登場してくる。 昔、そういえば、サントリーの宣伝でアラスカで髯もじゃの開高氏が登場するのがあったなぁ、と思いつつ、このときに阿川氏も登場していたのである。 開高氏の大食振り、大きな声の饒舌は伝説的だが、鼾の轟音もすごかったらしい。 それと、釣りの名人であるはずの開高氏だが、阿川氏の前では、さっぱりだったという裏話。 阿川氏は密かに、自分が開高氏から疫病神・貧乏神と思われていると気遣いつつも、自称「釣りの名人」にして大法螺吹き男が、一匹も釣れずジレンマで悩んでいるところを「意地悪く」高笑いしている。

カナダの提督として登場する阿川氏の友人宅で感じ入った漢詩だが、これは魯迅作の「自嘲」という漢詩らしく、「カナダの提督」が香港駐在のときに中国人書家に書いてもらったらしい。

以下その、読み下しと開高氏訳を記す。(もっと遠く 下巻 131ページと134ページ、 文春文庫)

運ハ華蓋(カガイ)ニ交(ア)イ何ヲ求メント欲スル

今ダ敢テ身ヲ翻サズ己ニ頭ヲ碰(ア)ツ

破帽モテ顔ヲ遮(カク)シテ闇市(ドウシ)ヲ過(ヨギ)リ

漏船(ロウセン)ニ酒ヲ載セテ中流ニ泛(ウカ)ブ

眉ヲ横タエテ冷カニ対ス千夫ノ指

首ヲ俯シテ甘ンジテ為ル儒子(ジュシ)ノ牛

小楼ニ躱(ノガ)レ進(イ)リテ一統ヲ成シ

牠(ソ)ノ冬夏ト春秋タルニ管センヤ

(開高氏訳)

凶運に出会ってどうにもならぬ

身をかわすすきもなく、頭、ぶっつけた

破れ帽子で頭をかくして雑踏をよこぎり

ボロ船に酒を積んで河をさまよう

みんなが何をいおうと知ったことかい

家で背中に子供をのせてオ馬ドウドウ

二階にこもってこぢんまり家族を守り

この世は春だの秋だの、勝手にしやがれ

尚、インターネットで調べたら、偶然以下の解説にぶつかった。

http://www5a.biglobe.ne.jp/~shici/p4zichao.htm

読み下しがところどころ違う。 漢文を読んで解釈するのは実際大変である。

ところで、阿川弘之氏の話から、開高健氏になって、最後は漢詩になってしまった。 南蛮阿房列車は、阿川氏が、出版社の方々や遠藤周作氏、北杜夫氏などを引き連れて世界各国の列車に乗りまわる楽しいエッセイである。 阿川氏の瞬間湯沸かし器振りは、随所に出てくる。 登場する相棒だが、他に「奇人幽霊」とか「葱」とか「砂糖」とか、いろいろ綽名をつけられて出て登場るのだが、とにかく可哀想になるくらい、阿川氏の毒舌の犠牲者になっている。 この辛口ぶりと随所で出てくる瞬間湯沸し器のフィルターを通した文明論というと大げさなのだが、珍道中ぶりと、氏の列車にまつわる執着振りと情熱が何と言っても魅力である。 今は、もう絶版になっている本だが、時折、手にしたくなる本である。

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