2019年8月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
無料ブログはココログ

« 村上春樹の「1Q84」を読む | トップページ | Kissinger氏の「On China」を読む (その2) »

2012年5月 6日 (日)

Kissinger氏の「On China」を読む その(1)

キッシンジャーの「On China」を読み始めた。2011年の春に出版されて評判になった。Timesにはイギリス人の歴史家Niall Ferguson氏の書評も出ていたし是非読んでやろうと思ってアマゾンですぐ注文した。しかし、なかなか熟読する時間を見つかられずに半年が経ってしまった。

P

 

やっと時間が出来た連休前に読み始めた、と、皮肉なことに新聞広告で岩波書店から「キッシンジャー回顧録」という名前で翻訳が出たことを知った。題名が良くないと思う。やっぱり、原題のニュアンスは尊重すべきだろう。「キッシンジャーの中国論」が妥当ではないか。

 

読みながらつくづく思うのは、欧米の政治家がどれだけ中国を中心とする東アジアの歴史と現状を理解しているのか、という疑問である。旧西ドイツの首相だったシュミット氏も彼の著書で「無知ぶり」を正直に告白している。彼らは、驚くほど自分たちの文明・文化圏以外の世界については無知なのだ。彼らにとっての教養とは、あくまでも同じキリスト教共同体から発展したヨーロッパ史であり、その枝分かれした北米アメリカ史なのだ。

 

裏を返せば、日本の政治家を始め、アジアの政治家がどれだけ欧米(ヨーロッパ・北米のキリスト教圏)の歴史・文化を理解しているかという、問いになるが、状況は同じだろうか。いや、明治維新で西洋化に目覚めた日本を始め、いわゆる近代化路線を取らざるを得なかった東アジアのみならず全世界の非西洋諸国の政治家たちはいやがおうでも手本として主要欧米諸国についての知識と理解を持たざるを得ないのだから、欧米のカウンターパート達よりは少しは上回っているのではないだろう。

 

キッシンジャー氏は、南ドイツの片田舎に生まれたドイツ系ユダヤ人だ。ヒトラーの迫害を逃れてアメリカに移住。どういう経緯でハーバード大学に入れたのかはわからないが、秀才ぶりを発揮して、ハーバード大学院で19世紀のヨーロッパ外交史の論文を書いて博士号を取った。米ソ冷戦真っ最中だったニクソン政権時代に大統領と二人三脚でそれまで国交のなかった中華人民共和国と国交回復を実現して世界をあっと言わしめた辣腕の外交官にして冷徹な戦略家、というのが私の知る大まかな氏について知るところである。

 

日中国交を回復した故田中角栄氏がロッキードスキャンダルで失脚して刑事被告となって晩節を汚しても「井戸を掘った恩人」として中国は彼に敬意を表し続けた。キッシンジャー氏は、そのアメリカ版である、とは言っても彼は晩節を汚している分けではない。キッシンジャー氏と中国との繋がりは深い。

 

大革命家にして大戦略家かつ暴君であった毛沢東とその子分(毛沢東に死ぬまでいじめられ続けたらしいが)周恩来との出会いから始まって今日までの歴代の中国のトップとの付き合いは長い。1972年から今日までの50年、半世紀である。国際政治学者として日本では紹介されるキッシンジャー氏だが、正確に言えば、彼はstrategist、つまり、戦略家というのが正確なところだろうと思う。

 

読みながら思ったのは、21世紀は中国が19世紀半ばごろから強いられた「150年」の屈辱をようやく清算して、かつての大国へ回帰する過程なのだ、ということだ。過去20世紀のうち18.5世紀において中国の力は圧倒的だった。その圧倒ぶりは、島国に住む現在の日本人には実感しずらい。

 

満州事変から日中戦争を戦って日本は中国に負けたのだが、大方の日本人の認識は中国に負けたのではなく、アメリカに負けたと漠然と思っている人が多いだろう(最近は、日本とアメリカが戦ったことを知らない世代が結構いると知って私はショックを受けたのだが)。

 

歴史をきちっと勉強すれば、日本は中国に負けたことが良くわかる。大戦略家であるキッシンジャー氏は、最初のほうの章で「孫子」に触れている。中国の古典「孫子」は、「戦いで最上は戦わずして勝つこと」としている。19世紀のプロイセン軍人クラウゼヴィッツの「戦争論」は、兵力の運用に重きがあるのに対して、「孫子」の戦略的観点(心理戦、謀略)はその上を行っているのだ。しかも、紀元前200年~400年のころの話なのだ。

 

日本は、中国の戦略に負けた。蒋介石の国民党軍と毛沢東の共産党(八路)軍は、西安事件を契機に2度目の国共合作を実現した。彼らの伝統的な戦略である「遠交近攻」政策に基づき、当面の敵である侵略者・大日本帝国と戦うために同じ帝国主義で苦しめられたイギリスやアメリカ、ソ連と手を結んだ。日本が真珠湾攻撃をした時点で、アメリカの第2次世界大戦の参戦が実現し、イギリスのチャーチルも国民党の蒋介石もこれで、日本に勝てる、と狂喜した。

 

冒頭でキッシンジャー氏は、中国の「独自性」(singularity)を強調している。そして、その独自性は、性質は違うが、アメリカ合衆国の「独自性」(exceptionalism)と対をなしている。どちらも、本来であれば、自足的で、周りに気遣う必要がない。違いは歴史の集積からくる中国独特の儒教文明に対し、アメリカは「Manifest Destiny」に象徴される使命感(民主主義とキリスト教を世界に広める)である。

 

どちらの国、というか私に言わせれば「文明圏=一つの世界」なのだが、我々日本人やヨーロッパ人が考える「国」=nation state (通常「国民国家」と訳される)とはmagnitude(度合)がまったく違う。ヨーロッパ大陸国は、ドイツ・フランスおよびベネルクス3国を中核に「ヨーロッパ合衆国」らしきものをつくろうとしているが、アメリカ合衆国も中国も国家としての度合いはこの「ヨーロッパ合衆国」規模なのだ。

 

(続く)

« 村上春樹の「1Q84」を読む | トップページ | Kissinger氏の「On China」を読む (その2) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 村上春樹の「1Q84」を読む | トップページ | Kissinger氏の「On China」を読む (その2) »